(11)薬物療法の実際

 現在のところ、糖尿病を完全に治す薬はありません。薬物療法は、食事療法、運動療法が充分に行われていても、血糖のコントロールが充分でない場合に必要となります。  薬物療法には経口血糖降下剤による治療法と、インスリン注射剤による治療法の2種類があります。


1.経口血糖降下剤

1)スルホニル尿素剤(SU剤)
 膵臓に作用して、インスリンの分泌を促進することにより、血糖を下げます。これらはインスリンの飲み薬ではありません。

<スルホニル尿素剤服用時の注意点>
※低血糖に注意してください
※のみ忘れた場合、2回分をまとめてのむのはやめて下さい。

薬品名作用時間
(時間)
1日投与量
(mg)
1日投与回数
(回)
効力
ブタマイド
(500mg)
8〜12500〜20001〜21
グリミクロン
(40mg)
6〜1240〜1601〜213〜30
オイグルコン
(1.25mg 2.5mg)
12〜181.25〜101〜2200〜400

2)ビクアナイド剤(BG剤)
 血中のブドウ糖を体の細胞の中に押し込む作用や、肝臓で過剰にブドウ糖がつくられるのを抑える作用により、血糖を下げます。 >

<ビクアナイド剤服用時の注意点>
※この薬は、食後に服用して下さい。


薬品名作用時間
(時間)
1日投与量
(mg)
1日投与回数
(回)
メルビン
(250mg)
6〜14500〜7502〜3


3)α−グルコシダーゼ阻害剤(食後過血糖改善剤)
 食べたものの吸収を遅らせ、食後の急激な血糖上昇を抑えます。
 インスリンの分泌を促進する作用はありません。

<α-グルコシダーゼ阻害剤服用時注意点>
※食後に服用すると効果がないので、必ず食直前に服用して下さい。
※インスリン注射、経口血糖降下剤と併用している方は、低血糖に注意して下さい。
※低血糖がおこった場合、従来のように角砂糖やキャンディなどを摂取しても効果はありません。
 必ず、ブドウ糖を摂取して下さい。

薬品名作用時間
(時間)
1日投与量
(mg)
1日投与回数
(回)
グルコバイ
(50mg 100mg)
150〜3002〜3
ベイスン
(0.2mg 0.3mg)
0.6〜0.92〜3


4)インスリン抵抗性改善剤
 インスリンの効きを良くすることによって、血糖を下げます。

<インスリン抵抗性改善剤服用時注意点>
※この薬は、食後に服用して下さい。
※インスリン注射、他の経口血糖降下剤と併用している方は、低血糖に注意して下さい。



薬品名作用時間
(時間)
1日投与量
(mg)
1日投与回数
(回)
アクトス
(15mg 30mg)
15〜451


5)速効型食後血糖降下剤(速効型インスリン分泌促進剤)
 膵臓に作用してインスリンの分泌を促進することにより、血糖を下げます。効き目が早く、持続時間が短いという特徴のため、食後の高血糖を改善しやすく、低血糖の危険性が少ないと言われています。

<速効型食後血糖降下剤服用時注意点>
※食時を始める前10分以内にのんで下さい。薬をのんだ後、食事を始めるまで時間がかかると(30分以上)低血糖を起こす可能性があります。
※のみ忘れた場合、2回分をまとめてのむのはやめて下さい。


薬品名作用時間
(時間)
1日投与量
(mg)
1日投与回数
(回)
ファステック
(30mg 120mg)
15〜120270〜3603


2.インスリン注射

1)インスリン注射ってどんなもの?
 インスリンは、血糖値を下げる作用を持つホルモンです。
 糖尿病になるとその人の身体が必要とする量に見合うだけのインスリンが膵臓から分泌されなくなったり、分泌されなくなったり、分泌されていても、その効き目が悪くなったりします。今やインスリン療法は手軽で身近な治療のひとつになりました。

<インスリン療法の意義>
※インスリン療法は、糖尿病の薬物療法のひとつで食事療法、運動療法と組み合わせることにより、インスリン作用不足を解消します。
※不足するインスリンを外から補うことにより、健康者の血糖値にできるだけ近付けることができ、健康者と変わらない状態で日常生活を送り、合併症の予防ができます。

<インスリン注射を必要とする人>
※1型糖尿病の場合
 膵臓でインスリンがほとんどつくられないので、インスリン療法が必要です。
※2型糖尿病の場合
 インスリンをつくる力が非常に低下している場合にはインスリン療法が必要です。
 また、普段は食事療法のみ、あるいは、のみ薬で十分治療されている人の場合でも重い感染症を起こした時、大ケガや大手術をうける時、あるいは他の病気のために血糖の上がる副作用を持つ薬を用いる時など、一時的にインスリン療法が必要となってきます。

<インスリン注射の実際>
※インスリン注射の方法、注射量などの実際については、主治医がその方の病状に合わせてきめ細かく指導します。


1)インスリンの種類と作用時間

インスリン名 作用発現時間 最大作用時間 作用持続時間(mg) 外観
速効型ノボリンR
ペンフィルR
ノボレットR
約0.5時間1−3時間約8時間透明
ヒューマリンR
ヒューマカートR
0.5−1時間1−3時間5−7時間
中間型モノタード約2.5時間7−15時間20−24時間懸濁
ノボリンN
ペンフィルN
ノボレットN
約1.5時間4−12時間約24時間
ヒューマリンN
ヒューマカートN
1−3時間8−10時間18−24時間
混合型ペンフィル10R−50R
ノボレット10R−50R
ノボリン30R
約0.5時間2−8時間約24時間
ヒューマリン3/7
ヒューマカート3/7
0.5−1時間2−12時間18−24時間
持続型ノボリンU約4時間8−24時間24−28時間
ヒューマリンU4−6時間8−14時間24−28時間


2)注射器具の種類
 インスリン製剤や注射器具には種々のタイプがあり、医師は患者さんの病態によって、どのようなインスリンをどのような注射方法で、何単位使えば良いか判断します。
 朝食前1回の場合もありますし、健康な人により近い血糖値を保つために1日2〜4回にわけて注射したり、2種類のインスリン製剤を併用する場合やインスリンポンプなどを使用することもあります。

●インスリン注射の時間
 食前20〜30分が基本になりますが、会合などで食事が遅れそうな時や、検査などで食事が遅れる時は、食直前でも構いません。
●インスリンの保存方法
 現在使用しているインスリンは常温保存し、保存用の予備のインスリンは凍結を避け、冷蔵庫に保存して下さい。
※火や暖房器具、直射日光の当たる場所、車の中などには置かないで下さい。
※ノボペンは、そのまま冷蔵庫には入れないで下さい。
※ノボレットは保存用のものはそのまま冷蔵庫に入れても構いません。

●使用した注射器や針の処理方法
 使用した注射器やペンニードルは缶やビンに入れるか、専用の捨て袋に入れるなどして、病院まで持って来て、処分してもらって下さい(家庭のゴミと一緒に捨てると針が刺さったりする事故につながります)。